青い雨 blue rain

香港 街角それぞれのストーリー

回想3‐ 人情の街

 

昨秋、田舎の祖母が亡くなってから髪を切っていないので、髪が肩にかかる位まで伸びてきた。それにここのところの初夏の湿気も影響してか癖毛がより渦を巻いて見た目にすごい状態になっている。髪を束ねず仕事にいく日などは、こんなにも私の顔を見る人が多かっただろうか?時には不思議そうな目、疑いの目、笑いの目、羨望?の目、こちらが過剰に意識してしまうほど多様な反応がある。(偏見を承知でいうが)特にストレートヘア信仰がある香港ではその特異性は際立つようだ。今日は髪結んでないんだねとか、あああの髪型がクレイジーな人ですねとか、頭で鳥飼ってるの?虫いるよね?などといわれることも多々。それぞれにいろんな表現で気にかけてくれる、うまく挨拶として昇華してくれるのも まさに香港流の人情だと思っている。

実際、とくに理由なく伸ばしている髪だが、誰かに理由を聞かれれば そうまさに ”まあ、なんとなく” と答えるようにしている。それでも私の中では決めている。祖母が亡くなって1年たつ今秋‐冬には髪を切ろうかなと。こう思うと、祖父がなくなった数年前にも一度髪を伸ばしていた時期があったなと思い出す。その時も1年は伸ばし、その後バリカン坊主にした。またその坊主姿がクライアントや同業者から ”デザイナーっぽくなくなったね?” と不当な不評を買い、また髪を伸ばし始めたこともあった。常々、じゃあデザイナーってなんなんだ?外野がガヤガヤ煩いなとも思うが、なんとも香港らしいといえばそうらしい。常に外野がおせっかいで騒がしい、それでいて最後には温かい気持ちにさせてくれる。そんな”香港”は昔から変わってない。それを確かめるためにも髪を伸ばしてクルクルにしていると言っても過言ではない。

 

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回想2‐異国の異国

冬の休暇を日本で過ごす話はいつも計画倒れになる。家内いわく それは”寒い”からだそうだ。いつからか体調のこともあり冬の休暇は南国に行くことが定番になっている。バリ、マレーシア、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、スリランカ、ドバイ。どこにいってもまあ現地ではホテル周辺でのんびりするだけの過ごし方になる。

その年の初めは、たしかベトナムとプーケットへ行っていたのだろうか。当時はまだ仕事・プロジェクトの多かった時期で、きっと休暇先でもろもろの仕事をこなしていたことだろう。休暇明けにいくつもの出張とプレゼが控えているような まさに綱渡りの順番を待つピエロのような緊張感?のなかで旅行に行っていた記憶がある。

それでも旅行へ行けば、すこしでも フルーツと野菜がおいしく感じられて、現地の人や文化との触れ合いがあって、家族で何か新しい景色や体験を共有できる。それと、高くて広い空の下 潮風にふかれながら 家族で昼寝したりする時間がある。特に好きなのは夕暮れ時。日中の汗をさっとシャワーと石鹸で洗い流し、夕方から俄然賑やかになる南国の町に繰り出す。なんのことはない、ホテルの近くを散歩しながら晩飯探しということなのだが。まあ、自分にもこんな時間があることで、現実社会で起こっている面倒なこと、そしてもっと大きな問題から適度に距離を置いていたんだろうなあと思っている。

 

 

 

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回想1‐ 2014

先日、母からの電話であれが娘の生まれた年だったことに気づく。あれというのは2014年夏・雨傘運動。当時のあのストリートの熱気は今でもたびたび思い出す。自分たちの行動で社会が変わるんじゃないかという期待と、それにしてもどうせ何も変わらないだろうという失望がないまぜになったあの晩夏の季節、例年ならストリートは熟れすぎた南国果物の甘ったるい匂いでいっぱいになる頃だったろうか。2014年7月1日香港返還記念日、汗の匂いと埃にまみれ皆で市庁舎までゆっくりと歩いた記憶。そこから続く長い夏の日々。平日は、仕事をさっと切り上げて、ビクトリア・パーク脇にあるオフィスから香港政府市庁舎のあるアドミラリティまで毎晩歩いた。当時英語を習っていた高齢の英国人先生の言葉 ”子供ができて親になると、親は子供の視点で社会をみるようになるんだよ” が妙に心に残るそんな夏だった。なるほどなあと思いながら、その目で世界をみると この世界はなんて綺麗で優しくてキラキラしたところなんだろうと毎日思っていた記憶がある。

 

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6月13日

MTRのF出口をでて空を仰ぐ、ああ今日も雨かあ。雨の季節、下水の臭いが入り混じった通りを歩いていると ああ香港に帰ってきたんだななぁと思う、シャツと靴はびしょびしょ、傘の群れをかきわけ とにかく前に進む。歩きながらふと数年前もこんな時があったなあと思い出す。この通りは2014年夏、香港・雨傘運動ー大規模公道占拠のあったまさにその場所

 

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